2016年6月16日木曜日

丸谷才一「贈り物」「秘密」(『にぎやかな街で』所収)

「贈り物」は軍隊生活の莫迦莫迦しさ、滑稽さを描いた作品だが、一方でその哀切さも胸に迫る。

酔っ払って川に落とした軍刀を部下に探させる見習士官の小隊長、歩兵砲のカバーが紛失して大騒ぎする部隊。そして歩兵砲のカバーで好きになった女に財布を贈ろうとする兵隊……。

この無闇に武張って形式的で暴力的な軍隊の生活を、丸谷才一は短い期間ながら経験していた。


http://ikazuravosatz.tumblr.com/post/94787294978/そんなふうにしてゐるうちにあの八月十五日が来たそしてそれは喜びが胸に湧わき起るといふやうな派


徹頭徹尾軟派で通した丸谷才一ならではという作品。短いがとても良い。





「秘密」は『笹まくら』に直結する徴兵忌避の物語。

徴兵忌避についてはもういいやというくらいなので、他の話。

主人公のお祖母さんが出征前夜、「チョウスウのため死んだどて、どもならねすけの」「ええが、チョウスウのため死ぬのはやめれ」と訛りの強い口調で教え諭す。この「チョウスウ」が何なのかということが謎となって、小説の半分くらいまで進む。このあたりがいかにも『樹影譚』を書いた作家らしくておもしろい。

さらになぜお祖母さんがそのことばを口にしたのか、幕末生まれのお祖母さんの近代日本観がどういったものか、また遠く聞こえる湯治場での宴会の歌の国家観と、主人公は考えづめに考える。この調子を嫌う人もいるけれど俺は好きだ。


にぎやかな街で

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